《短篇集(日文版)》第5章


小言(おほこごと)を云はれるので、匆々師匠の部屋から出て参りましたが、まだ明い外の日の光を見た時には、まるで自分が悪夢から覚めた様な、ほつとした気が致したとか申して居りました。
しかしこれなぞはまだよい方なので、その後一月ばかりたつてから、今度は又別の弟子が、わざわざ奥へ呼ばれますと、良秀はやはりうす暗い油火の光りの中で、剑Pを噛んで居りましたが、いきなり弟子の方へ向き直つて、
「御苦労だが、又裸になつて貰はうか。」と申すのでございます。これはその時までにも、どうかすると師匠が云ひつけた事でございますから、弟子は早速衣類をぬぎすてて、赤裸(あかはだか)になりますと、あの男は妙に顔をしかめながら、
「わしは鎖(くさり)で俊椁欷咳碎gが見たいと思ふのだが、気の毒でも暫くの間、わしのする通りになつてゐてはくれまいか。」と、その癖少しも気の毒らしい容子などは見せずに、冷然とかう申しました。元来この弟子は画筆などを握るよりも、太刀でも持つた方が好ささうな、逞しい若者でございましたが、これには流石に驚いたと見えて、後々までもその時の話を致しますと、「これは師匠が気が摺膜啤⑺饯驓ⅳ工韦扦悉胜い人激窑蓼筏俊工壤R返して申したさうでございます。が、良秀の方では、相手の愚図々々してゐるのが、燥(じれ)つたくなつて参つたのでございませう。どこから出したか、細い鉄の鎖をざら/\と手繰(たぐ)りながら、殆ど飛びつくやうな勢ひで、弟子の背中へ仱辘辘蓼工取⒎駨辘胜筏摔饯蝺崄I腕を捻ぢあげて、ぐる/\巻きに致してしまひました。さうして又その鎖の端を邪慳(じやけん)にぐいと引きましたからたまりません。弟子の体ははづみを食つて、勢よく床(ゆか)を鳴らしながら、ごろりとそこへ横倒しに倒れてしまつたのでございます。

その時の弟子の恰好(かつかう)は、まるで酒甕を転がしたやうだとでも申しませうか。何しろ手も足も惨(むご)たらしく折り曲げられて居りますから、動くのは唯首ばかりでございます。そこへ肥つた体中の血が、鎖に循環(めぐり)を止められたので、顔と云はず胴と云はず、一面に皮膚の色が赤み走つて参るではございませんか。が、良秀にはそれも格別気にならないと見えまして、その酒甕のやうな体のまはりを、あちこちと廻つて眺めながら、同じやうな写真の図を何枚となく描いて居ります。その間、俊椁欷皮黏氲茏婴紊恧ⅳ嗓挝豢啶筏膜郡仍皮帐陇稀⒑韦猡铯叮苋·炅ⅳ譬f申し上げるまでもございますまい。
が、もし何事も起らなかつたと致しましたら、この苦しみは恐らくまだその上にも、つゞけられた事でございませう。幸(と申しますより、或は不幸にと申した方がよろしいかも知れません。)暫く致しますと、部屋の隅にある壺の蔭から、まるでび亭韦浃Δ胜猡韦⒁护工录殼Δ亭辘胜椤⒘鳏斐訾筏撇韦辘蓼筏俊¥饯欷激沃肖嫌喑陶长隁荬韦ⅳ毪猡惟fやうに、ゆつくり動いて居りましたが、だん/\滑らかに、辷(すべ)り始めて、やがてちら/\光りながら、鼻の先まで流れ着いたのを眺めますと、弟子は思はず、息を引いて、
「蛇が――蛇が。」と喚(わめ)きました。その時は全く体中の血が一時に凍るかと思つたと申しますが、それも無理はございません。蛇は実際もう少しで、鎖の食ひこんでゐる、頸の肉へその冷い舌の先を触れようとしてゐたのでございます。この思ひもよらない出来事には、いくら横道な良秀でも、ぎよつと致したのでございませう。慌てて画筆を投げ棄てながら、咄嗟に身をかがめたと思ふと、素早く蛇の尾をつかまへて、ぶらりと逆に吊り下げました。蛇は吊り下げられながらも、頭を上げて、きり/\と自分の体へ巻つきましたが、どうしてもあの男の手の所まではとどきません。
「おのれ故に、あつたら一筆(ひとふで)を仕損(しそん)じたぞ。」
良秀は忌々しさうにかう呟くと、蛇はその儘部屋の隅の壺の中へ抛りこんで、それからさも不承無承(ふしようぶしよう)に、弟子の体へかゝつてゐる鎖を解いてくれました。それも唯解いてくれたと云ふ丈で、肝腎の弟子の方へは、優しい言葉一つかけてはやりません。大方弟子が蛇に噛まれるよりも、写真の一筆を铡膜郡韦I腹(ごふはら)だつたのでございませう。――後で聞きますと、この蛇もやはり姿を写す為にわざ/\あの男が飼つてゐたのださうでございます。
これだけの事を御聞きになつたのでも、良秀の気摺窑袱撙俊⒈菸钉螑櫎糁肖摔胜攴饯⒙裕à郓g)御わかりになつた事でございませう。所が最後に一つ、今度はまだ十三四の弟子が、やはり地獄変の屏風の御かげで、云はゞ命にも関(かゝ)はり兼(か)ねない、恐ろしい目に出遇ひました。その弟子は生れつき色の白い女のやうな男でございましたが、或夜の事、何気なく師匠の部屋へ呼ばれて参りますと、良秀は燈台の火の下で掌(てのひら)に何やら腥(なまぐさ)い肉をのせながら、見慣れない一羽の鳥を養つてゐるのでございます。大きさは先(まづ)、世の常の猫ほどもございませうか。さう云へば、耳のやうに両方へつき出た羽毛と云ひ、琥珀(こはく)のやうな色をした、大きな円い眼(まなこ)と云ひ、見た所も何となく猫に似て居りました。

元来良秀と云ふ男は、何でも自分のしてゐる事に嘴(くちばし)を入れられるのが大嫌ひで、先刻申し上げた蛇などもさうでございますが、自分の部屋の中に何があるか、一切さう云ふ事は弟子たちにも知らせた事がございません。でございますから、或時は机の上に髑髏(されかうべ)がのつてゐたり、或時は又、銀(しろがね)の椀や蒔剑胃呋担à郡膜─瑏Kんでゐたり、その時描いてゐる画次第で、随分思ひもよらない物が出て居りました。が、ふだんはかやうな品を、一体どこにしまつて置くのか、それは又誰にもわからなかつたさうでございます。あの男が福徳の大神の冥助を受けてゐるなどゝ申す噂も、一つは確にさう云ふ事が起りになつてゐたのでございませう。
そこで弟子は、机の上のその異様な鳥も、やはり地獄変の屏風を描くのに入用なのに摺窑胜い取ⅳΧ坤昕激丐胜椤熃长吻挨匚罚à筏常─蓼膜啤ⅰ负韦盲扦搐钉い蓼工工取⒐А─筏辘筏蓼工取⒘夹悚悉蓼毪扦饯欷劋à胜い浃Δ恕ⅳⅳ纬啶ご饯厣啶胜幛氦辘颏筏啤?br /> 「どうだ。よく馴れてゐるではないか。」と、鳥の方へ頤(あご)をやります。
「これは何と云ふものでございませう。私はついぞまだ、見た事がございませんが。」
弟子はかう申しながら、この耳のある、猫のやうな鳥を、気味悪さうにじろじろ眺めますと、良秀は不相変(あひかはらず)何時もの嘲笑(あざわら)ふやうな眨婴恰?br /> 「なに、見た事がない? 都育ちの人間はそれだから困る。これは二三日前に鞍馬の猟師がわしにくれた耳木兎(みゝづく)と云ふ鳥だ。唯、こんなに馴れてゐるのは、沢山あるまい。」
かう云ひながらあの男は、徐(おもむろ)に手をあげて、丁度餌を食べてしまつた耳木兎の背中の毛を、そつと下から撫で上げました。するとその途端でございます。鳥は急に鋭い声で、短く一声啼いたと思ふと、忽ち机の上から飛び上つて、両脚の爪を張りながら、いきなり弟子の顔へとびかゝりました。もしその時、弟子が袖をかざして、慌てゝ顔を隠さなかつたなら、きつともう疵(きず)の一つや二つは負はされて居りましたらう。あつと云ひながら、その袖を振つて、逐ひ払はうとする所を、耳木兎は蓋(かさ)にかかつて、嘴を鳴らしながら、又一突き――弟子は師匠の前も忘れて
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